Digital Decor

Computer supported work/communications by sensor furnishings

近い将来,ユビキタスで透明な存在のコンピュータが埋め込まれた,単機能の情報アプライアンスが一般化すると予想されている.一方,家具,調度品,小型の家庭電化製品,および生活のあらゆる場所に置かれている小物などの総称であるdecorは,我々が長年親しんだ簡単な操作で,単一もしくは限られた数の機能を提供しているので,このような透明な存在のコンピュータを組み込むのに格好の場所である.

透明な存在のコンピュータによって強化されたdecorをDigital Decorと呼ぶことにする.GUI (Graphical User Interface)設計において,人々の実世界の知識をメタファーとして利用したことと同様に,Digital Decorの設計では,従来のdecorの機能と操作方法に関する人々の知識を利用することができる.Decorを使った人々の日常の行動を,目に見えないデジタル世界を操作するインタフェースとしてどのように利用していくかが,Digital Decorの設計課題である.


Prototype 1: Timestamp Drawers

オフィスで,
「あの会議でもらった資料はどこにしまっただろうか?」
と自問する場面はめずらしいことではない.ある会議資料を収納した場所を正確に覚えておくことは難しいが,その文書がどの会議で配付されたかを覚えておくことは比較的容易である.もし,会議の記憶に基づいて文書を探すことができれば,物探しの作業はずっと楽になるであろう.

もし棚や引き出し家具のような収納家具が,それぞれの棚板や引き出しに人がアクセスした時刻情報を記録すれば,人が探し物をする際には,この記録を元に,どこを探索すべきか助言することができるだろう.

下図は,Digital Decorの一つとして試作したTimestamp Drawersである.この家具は,高さ,幅,奥行がそれぞれ107cm x 32cm x 40cm で,10段の引き出しを持っていて,それぞれの引き出しにリードスイッチによる開閉センサーが取り付けられている.引き出しの開閉イベントは,時刻情報を付加して,家具の上に置かれたコンピュータに記録される.その記録は,コンピュータの画面に表示される.
表示の各行は引き出しそれぞれの状況を表し,開閉イベントがタイムスタンプとともに表示される.

スケジュールから,「あの会議」が先週の火曜日であったことがわかれば,冒頭の質問は,
「先週の火曜日にもらった書類はどこにしまっただろうか?」
ということになり,Timestamp Drawersが書類探しに役立つであろう.

Fig.1. Timastamp Drawers

ユーザは引き出しの開閉時にキーボードをタイプしたり,音声認識機能(IBM社ViaVoiceを使用)を利用して,開閉記録に文字の注釈を追加することもでる.ユーザは,画面下部の時間軸スライダを操作して開閉記録を閲覧したり,キーワードを入力して注釈情報から検索して,探し物が入っている可能性のある引き出しを探すことができる.


Prototype 2: Strata Drawers

Strata Drawerは,積み重ねられた書類や衣類などの中から,書類や物の探索する作業をサポートする目的で試作された,カメラを内蔵した引き出し家具である.

深い引き出しを一つ持つこの家具には,カメラ,内容物の高さセンサー,コンピュータが組み込まれている.ユーザが引き出しの中に何か物を入れて閉じると,引き出し内を自動的に撮影して,さらに内容物の高さをレーザ光線を利用して測定する.物を入れるたびに撮影された収納物の地層の写真は,撮影時刻と高さの情報と一緒に閲覧することができる.

Fig. 2 Strata Drawer idea.

 

Fig. 3 Stacked objects in the drawer

試作したシステムは,高さ,幅,奥行がそれぞれ64cm x 49cm x 39cm の市販の引き出し家具を改造して製作した.上部には,引き出し開閉を検出するためのリードスイッチ,照明用の4個のハロゲンランプ,デジタルスチルカメラ(Olympus D-360L),レーザダイオード,および制御用の電子回路を組み込んだ.これらのデバイスは,撮影プログラムとWWWサーバが稼働しているコンピュータ(1GHz Pentium III, Linux OS)のシリアルポートとパラレルポートに接続されている.

Fig. 4 The Strata Drawer has a digital camera and a laser diode

ユーザが引き出しを閉じると,引き出しに埋め込んだ磁石にリードスイッチが反応し,コンピュータの撮影プログラムに伝えられる.そこでコンピュータはハロゲンランプとカメラの電源を投入して,写真を撮影して,画像データを取り込む.

Fig. 5 Compensated image (right)

広角レンズによる樽形歪みは,撮影プログラムで補正し,同時にホワイトバランスの調整も行っている.

Fig. 6 After taking a picture in the drawer (left), the picture-taking program turns on the laser and takes a second picture of the drawer contents illuminated by the laser line to determine the height of the drawer contents.

レーザダイオードは,Strata Drawerの天板の右端に取り付けられていて,引き出し底の左隅に向けて対角方向に光線を投影する.レーザの照射口に取り付けた円筒形レンズにより光線は拡げられて,引き出しの奥と手前を結ぶ直線になる.撮影プログラムはランプを点灯して内容物を撮影した後,ランプを消灯してレーザダイオードを点灯し,内容物に投影されたレーザ光線の写真を撮影する.

レーザ光線は,引き出しの中を対角線方向に照射するので,引き出しの端からレーザで描かれた線までの距離から,内容物の高さを知ることができる.すなわち,輝線が写真の左端から離れているほど,引き出し内容物の高さが高いことになる.

Fig.7 The Strata Drawer browser has time and depth sliders to browse through the stack of objects that are in the drawer.

カメラによって撮影された内容物の写真は,撮影時刻と内容物の高さ情報とともに,WWWサーバに格納される.閲覧プログラムには,時間軸と高さのスライダーがあり,これを動かすことで引き出し内容物の写真を閲覧できる.


Prototype 3: Snap Chest

This is the box version of the Strata Drawers. The cover of the chest has a camera and open/close sensor. It takes photos inside the chest when the cover is closed. These snapshots will be browsed on a computer display by time sequence to support finding objects.


Prototype 4: Snap Cupboard

This is the cupboard version of above prototypes. The door of the cupboard has a camera and open/close sensor. It takes photos inside the cupboard when the door is going to be closed. These snapshots will be browsed on a computer display by time sequence to support finding objects.


Prototype 5: Peek-A-Drawer

日米をはじめ多くの先進諸国では,家族のあり方が変わり,近しい親族が遠く離れて暮らすことが一般的になった.しかし,子供や孫と離れて暮らす老人は,生活の一部を孫と共有したいと考えている.彼らは,離れて暮らす孫たちのお気に入りの玩具や,学校で書いた絵や作品などに関する,もし同居していたら自然と共有できるであろう情報を欲しがっている.

Peek-A-Drawer は,ネットワーク接続された一対の引き出し家具である.上の引き出しの内容が,もう一方の下の引き出しのディスプレイに表示され,引き出しの仮想的な共有を実現する.

そこで市販の引き出し家具を改造して,上部引き出しにデジタルスチルカメラ,ハロゲンランプ,リードスイッチを組み込んだ.

下の引き出しには,コンピュータ(1GHz Pentium III, Linux OS)と15インチ液晶ディスプレイ(LCD)が組み込まれている.カメラで撮影された引き出しの中の画像を,もう一方の家具の下の引き出しのLCDが表示する.LCDは引き出しの中に上向きに設置されているので,離れた場所の引き出しの内容をのぞき込んでいるかのようなリアリティを得ることができる.

サテライトオフィスで働く人々は,同僚と引き出しを共有して,仕事の進ちょく状況などを共有することができる.

離れて暮らす祖母と孫は,子供が学校で作った工作やメッセージの紙などを使って,コミュニケーションをはかることができる.


Printable quality figures are:

StrataDrawer, SnapChest, SnapCupboard, Peek-A-Drawer , Peek-A-Drawer Applications


Papers:

  • 電子情報通信学会総合大会予稿集, 2000.3 (IEICE 2000, in Japanese)
    (PDF is here)
  • Itiro Siio, James Rawan, and Elizabeth Mynatt, "Peek-A-Drawer" (poster demo), ACM UbiComp 2001: International Conference on Ubiquitous Computing, Sep. 30 - Oct.2, 2001, Atlanta, Georgia, USA,
    (PDF is here)
  • Itiro Siio, James Rawan, and Elizabeth Mynatt, "Peek-a-drawer:communication by furniture" , Conference Extended Abstracts on Human Factors in Computer Systems (ACM CHI 2002), pp. 582-583, April 2002.
    (PDF File)
  • 椎尾一郎, James Rawan, 美馬のゆり, Elizabeth Mynatt, "Digital Decor: 日用品コンピューティング",
    第10回インタラクティブシステムとソフトウェアに関するワークショップ (WISS 2002), 日本ソフトウェア科学会研究会資料シリーズ, ISSN 1341-870X, No. 22, pp. 117-126, 2002.12.4-6.
    (PDF File)


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